☆日露コンテンツ ソフィア先生の日露戦争その6−5☆


 

 

 

 「二〇三高地が陥落して旅順艦隊も壊滅したんだよね。前回の最後で、残りは残敵掃蕩だみたいなことが書かれていたけど、そうなのかな?」

 「第三軍の目的は旅順の陥落やが、旅順艦隊が壊滅したんで急かされることが無くなったんや。要するに無理攻めする必要がなくなったということやな。その辺から見ていくで」

 

 

 

12月10日

 

 

乃木 「今後の方針として、多少の日時を費やしても我が軍の損害を少なくする。朝に一塁、夕方に一塁といった具合に確実な方法で行こう」

 「第一師団は松樹山、第九師団は二龍山、第十一師団は東鶏冠山北堡塁を攻めろ。方法は坑道を掘って敵堡塁を爆破することに重点をおけ。突撃には必ず軍司令部の許可を得ること」

 「第七師団は老鉄山(旅順市街から西南、遼東半島の先端に位置する山)付近から陸揚げする密輸ルートおよびロシア軍の同地への退路を遮断せよ」

 

 

 

12月11日

 

 

 

 「充分な戦果を上げたので28cm砲による旅順港砲撃は中止せよ。ただし市街への砲撃は続行する」

 「わが忠勇なる大日本帝国軍兵士たちよ。

今や旅順艦隊の全てが、我が28cm榴弾砲によって海に消えた。

この輝きこそ、我ら大日本帝国の正義の証である。

決定的打撃を受けたロシア軍にいかほどの戦力が残っていようと、それはすでに形骸である。

あえて言おう。カスであると。

それら軟弱の集団が、旅順要塞を死守する事は出来ないと私は断言する。

アジアは、我ら黄色人種によって管理運営されて、初めて永久に生き延びることが出来る。

これ以上戦いつづけては、アジアそのものの危機である。

ロシアの無能なる者どもに思い知らせてやらねばならん。

今こそ、黄色人種は明日の未来に向かって起たねばならぬときであると。

大日本帝国万歳!

 「……(冷静に考えればこの4人に黄色人種は一人もいないぞ)」

 

 

 「……乃木さんにも随分余裕が出てきたみたいだね」

 「対してロシア軍は二〇三高地が陥落して旅順艦隊が壊滅してから降伏論が強くなってきたんや」

 

 

 

12月8日 旅順

 

 

 

ステッセル 「こうなった以上、死者を弔うよりも生者を助けるために降伏を考えた方が良さそうですね」

レイス 「同感です」

 「二〇三高地ヴィソーカヤ失陥とそれに伴う情勢の激変により、軍司令官は貴方が幹部会議を招集して将来の要塞防備に関する討議を行なうように希望しています」

スミルノフ 「とりあえず幹部を集めて会議を開くわ」

スミルノフ 「ヴィソーカヤは陥落したけど、その方面からはそれ以上乃木は押し出してこないわ。以前まで攻撃してきた東北部に方向転換することは間違いないわよ。よって西部の兵力も東部に移して防戦すべきだわ」

フォーク 「では老鉄山はどうなるの?」

 「何バカなこと言ってるの。老鉄山なんかヴィソーカヤよりも戦略価値の低い山に過ぎないわ。そこを守るために旅順口が陥落したら本末転倒よ」

 

皆一同にうなずく

 

 「防衛に関する最重要課題は将兵の健康増進よ。チフス患者は減ったけど壊血病患者は増大しているわ」

 「これを防ぐため軍馬を馬肉として与えるべきね。またやる気を出させるために砂糖とウォッカも配るべきだわ」

 「異議なし」

 「じゅるり」

 「じゃあこれで閉会ね」

 「待って下さい。軍司令官閣下の命令で皆さんに諮りたいことが」

 「何?」

 「閣下は現在の悪戦が市街戦の発生及び住民の虐殺につながる事を恐れています。よって防戦の限度、言い換えれば降伏の時期に関して議することを希望しています」

 「論外ね」

 「砲弾は二会戦分残ってるし、銃弾はまだ1千万発あるわ。銃弾がなくなっても銃剣突撃よ」

 「最後の一兵まで戦うことを公約したのは軍司令官ではなくて?」

 「それに食糧もあるわ。肉は馬肉至急のめどがついたし、他の物だって1か月分はまだあるわよ」

 「要するに降伏を論議するのは来月中旬以前は無用のことね」

 「異議なし」

 「(驚きの表情)…」

 

散会後

 

ベールイ 「フォークがスミルノフ閣下の意見に異議を唱えなかったことにレイスは驚いていたわよ。多分フォークが降伏に賛成すると思った根拠があったんじゃない?」

コンドラチェンコ 「それよりも問題はステッセルです。カレーの食べすぎで頭がおかしくなったのではないでしょうか」

 

 

12月9日

 

 

ステッセル 「すぐ降伏しろなんて言ってません。降伏すべきかどうかの時期を知れと言っただけです。それは一般市民の虐殺が迫ったとき以外ないではありませんか」

 「砲弾、銃弾、銃剣と並べてますけど、順序だてて使用するのではなく一斉に使用するのが戦闘でしょうが」

 「老鉄山が大切だというフォークの意見は間違ってません。よって兵は一兵たりとも東部へは移しません」

 「砂糖とウォッカは配給しません。肥満や酔っ払いになってどう戦うというのです」

 

 「約束された勝利の剣!!」

 「何するんです!?」

 「ケチケチしないで下さい」

 「貴方に渡すと一瞬でなくなってしまうじゃありませんか!」

 「なっ!? 失礼な!!

 

 

 「…ステッセルの非道な節約令は傷病者を苦しめるだけでなく第一線将兵を不能者に変化させ…旅順を日ごとに『生ける墓場』状態にして降伏の端緒を作ったのです」

 

 

 

12日 旅順港に小麦粉五万袋が陸揚げされ、市民は欣喜  

 

 

 「この小麦粉は備蓄に回します。すぐには配給しません」

落胆する市民

 「許せませんね」

ノイネ 「ステッセルは自分の夫人以外の市民感情には顧慮しないのです。一例として…」

 

 「病院といったって民家や倉庫を利用したものですし、倉庫の中には軍需物資も入っています。そんなところに赤十字マークをつけるほうが国際法違反です」

 「おそらく、日本軍の砲撃で日中の散歩ができないというステッセル夫人の苦情によるものでしょう。また、敢えて日本軍の非人道的行為を強調して降伏の口実を喧伝し、本国の同情を惹くためでしょう」

スミルノフ 「(志貴を取られて悔しいのはお互い様だけど)そりゃ穿ちすぎよ。市民を災厄から救おうとするステッセルの行動は正しいわ。ただ」

 「問題は軍需品も市民にも逃げ場がない事態を招いたことよ。その無策に対する神罰が下りつつあるんだわ。より大きな災害が起こりそうな気がする」

 「真祖が埋葬機関に神罰だなんて冗談が過ぎますよ」

 「しょうがないじゃない。児島さんの日露戦争にそう書いてあるんだから」

 「原作のセリフを流用しすぎです」

 「独創力のない作者に文句を言ってよね」

 「真祖が『より大きな災害が起こりそうな気がする』なんて言ったら気になりますよ」

 「それが当たっちゃうのよね」

 

 

 「あのカレーとあかい便利屋のヘタレ二人をどうにかしないと」

コンドラチェンコ 「こうなったらやむを得ません」

ゴルバトフスキー 「どうするの?」

 「貴方も了承してください。あの二人を逮捕してペテルブルグに送ってしまうのです」

 「…(温和な貴方がそんなことを言うなんて)」

 「下級指揮官が上級指揮官を逮捕するなんて秩序上拙いし、貴方は後で宮廷の要人から弾劾されるわよ」

 

 

 「これ本当の発言なんですか?」

 「作者は坂の上の雲以外では確認していないわね。この発言がステッセルとフォークの耳に入ったらしい、とも書かれているわ」

 「状況的にコンドラチェンコはステッセルとフォークの邪魔者ですね」

 

 

 

12月15日午後5時

 

 

 

コンドラチェンコ 「二龍山で悪臭が発生したですって? 現場に向かいましょう」

ナウメンコ 「確かに牛糞を燃やした臭いに似てるな」

 「いや、もっと強烈なものですよ。吹き付けられて気を失う兵もいますから」

 「毒ガスではないようだね。戦場は火薬臭、死臭、便臭、汗臭、体臭、膿臭、腐臭などが入り混じってるから、その匂いだろう」

 「話を聞いているだけで気分が悪くなります・・・が、臭いのほうが砲弾よりはマシです」

 「そりゃそうだ。午後8時から東鶏冠山堡塁で勇敢な兵に勲章を与える予定だったはずだけど」

 「そうですね。東鶏冠山堡塁に向かいましょう」

 

 

 

午後8時 東鶏冠山堡塁

 

 

 

 「かくかくしかじかで貴方に聖ゲオルギー勲章を授与します」

 

以下、砲弾着弾の音がするなか食事会

 

 「あれ、珍しく食欲がないね」

 「どうも先ほどの臭いが今になって堪えてきたようです」

 「あれはひどい。日本軍の工作が成功したな(笑)」

 

午後9時、4発目の着弾音

 

 「ここが一番安全だ。そうだろう、諸君」

 「そうですね。ですが私は旅順へ戻らねば・・・」

 

5発目の着弾

 

 「うわー

 

そこにいた14人のうち7名が戦死、残り7名が負傷  

生き残りA 「中将閣下は無事?」

生き残りB 「脳漿が飛び出てる・・・絶望的・・・」

生き残りC 「ナウメンコ中佐殿も戦死されたわ」

生き残りA 「ああ、なんということだ」

 「これでもう旅順はお終いだ」

 

午後10時 コンドラチェンコ戦死の報が届く

 

スミルノフ 「まさか……神様」

 

 

 

 「やっぱり真祖が神様って言うのは変じゃない?」

 「そこはスルーしておき」

 「コンドラチェンコってロシア軍の中で唯一の名将とされていたんだよね。具体的には何をしたの?」

 「まず不完全だった旅順要塞を強靭なものに作り変えたことや。工兵出身やし、その辺はお手の物やな」

 「また、常に前線に立ち、下士官・兵をよく訪れて歓談し、支持は絶大やった。『コンドラチェンコがいれば安心して戦うことができる』とな」

 「日本軍にも『旅順の強さはコンドラチェンコの強さ』とまで言われたくらいや」

 「スミルノフは?」

 「指揮官としては悪くないんやが、いかんせん旅順に来た時機が遅すぎて、兵卒の心を掴むまではいってなかったんやな。50歳のスミルノフにとって47歳のコンドラチェンコは最も信頼できる部下でもあり友人でもあったんや」

 「ステッセルは面白くないだろうね」

 「そうでもないで、ステッセルはスミルノフとは犬猿の仲やが、コンドラチェンコとは悪くない。ただステッセル派のフォークがコンドラチェンコと犬猿の仲で、二〇三高地が陥落して士気が萎えてから問題が出てきたんやな」

 「ステッセルとフォークが共同してコンドラチェンコを死に追いやったらしい、という推測があったと坂の上の雲で書かれてたよね」

 「所詮は推測に過ぎんけどな。死の前日に前線視察を命じただけでそうだというのは無理がありすぎや。逆に日本軍がコンドラチェンコの位置を調べて戦死させたという説もあるんや」

 「ソースは?」

 「ロシア海軍軍令部編の『千九百四、五年露日海戦史 』や。児島襄の日露戦争からの孫引きやけどな。日本軍側の記録にはないから、コンドラチェンコの戦死を惜しんでそうしたとも考えられるな」

 「もしシエルさんと遠坂さんが死に追いやったとしたら・・・

『セイバー、私の手向けです。衛宮君と仲良く暮らすがいいわ』

 とでも言ったのかな?」

 「……」

 「へへへ・・・」

 「それで?旅順がお終いだ、と言うのは」

 「戦死数日後に捕虜になったロシア兵が

 と語ったし、またある兵は開城後、  とまで語っとる」

 「さてコンドラチェンコという精神的支柱を失ったロシア軍を見てみるで」

 

 

 

スミルノフ 「(呆然)」

 「(愕然)まずい、コンドラチェンコの後任は先任順位からいうとフォークじゃない。あのヘタレに務まるはずはないわ」

 「陸正面防衛司令官は要塞司令官ともども私が兼務しないと。ステッセルに伝えなくちゃ」

 「寝てるのでまた明日」

 「じゃあフォークに言っとかないと」

フォーク 「39度の熱が出ているので会えません」

 「レイス、コンドラチェンコの後任は私が兼ねるわね。フォークは第二地区司令官にするけど、病気のようだから回復までナディンに代行させるわ」

レイス 「この人事は貴官の権限内ですので、問題ありません」

 

 

 

12月17日 コンドラチェンコの葬儀

 

 

 

ステッセルとフォークはいない

ノイネ 「閣下、この前の乃木に対する病院砲撃中止交渉はどうなりました」

 「大雑把に言うと、

 ね。ちょっとその辺の兵の話を聞いてみなさいよ」

兵A 「私たちの将軍が死んだとなっちゃ、どうすればいいんだぁーーー」

兵B 「もうお終いって事よ、他に考えようがないだろう」

 「(感動中)」

 「コンドラチェンコは兵士に伝説を残したわ。誰がその後任にふさわしいかしら」

 

結局、葬儀終了後までステッセルとフォークは来なかった

 

 

 

司令部

 

 

 

 「なんでアンタがここにいるのよ。高熱じゃなかったの?」

フォーク 「治りましたから」

 「(仮病じゃないかしら)かくかくしかじかで貴方には第二地区司令官をやってもらうから」

 「喜んでお引き受けします」

 「ただ、その件は至急軍司令官に報告したほうがいいかと。軍司令官閣下は私を陸正面防衛司令官に任命するようです。辞令が出てからでは変更が困難でしょう」

 「(やられた)何ですって!?

 「かくかくしかじかでコンドラチェンコ死後の人事はこうするつもりなんだけど」

 「(不機嫌そうに)すでにフォークを陸正面防衛司令官に任命しました。命令も発令ずみです」

 「でもフォークに戦闘指揮をとらせるのは拙いわよ」

 「決定事項です!

ノイネ 「まさかステッセルが閣下の権限を越えて人事を行なうとは…」

 「コンドラチェンコの死は旅順にとって損失よ。そしてフォークが後任になったのは旅順にとって一大災厄よ。今にわかるわ」

 「真祖の予言は当たりますからね…」

 

まさに翌日その予想はあたった。12月18日、東鶏冠山北堡塁が陥落する

 

 

 

 「日本軍の工兵が2250kgもの爆薬を仕掛けて一気に吹き飛ばしたんや」

 「ひえぇぇぇぇ

 

 

 

12月19日

 

 

 

 「東鶏冠山北堡塁が失陥したですって?」

フォーク 「退却を指令しました」

 「誰の命令でよ!?

 「ステッセル閣下よ。貴方に電話したけど応答がなくて」

 「嘘おっしゃい。私は貴方達と違って、砲弾から逃げるために居場所を頻繁に移したりはしないわよ」

 「二度とこんな指揮系統を壊す真似はしないで頂戴」

 「絶対フォークとステッセルは組んでるに決まっているわ。満州軍総司令官クロパトキン閣下にお願いの電報を打たないと。

 防衛の全責任と全権限を与えてもらえれば来年2月末までは持つとも言っておかないと」

 「返事は一週間以内に欲しいわね」

 

返事は遅れ、12月28日、二龍山堡塁も陥落する

 

 

 

 「やっぱり爆薬で吹き飛ばしたの?」

 「そうや。しかも今回は2700kgと前回より多いから威力も大きいで。二龍山堡塁が落ちてからロシア軍の士気が目立って落ちたんや」

 

 

 

12月29日 ステッセルが幹部会議を招集する。

 

 

 

参加者はステッセルのほかスミルノフ以下計22名

 「(食糧も物資も兵力も不足、将校も多く死傷したので士気は衰えている。おまけに満州軍の増援の見込みはない。無論眼前の日本軍を駆逐することもできない。これは降伏以外ないと思いますが…)」

 「率直かつ自由な意見を述べてください。皆さんの意見を聞いた後、私が用意した結論を披露します」

レイス、フォークら6名の幹部 「抗戦の成果に期待できない。兵の無駄死には避けるべきでは…」

他の幹部 「何を言いたいのかはっきりしたら!?(ヤジ)」

ゴルバトフスキー 「例え陥落或いは降伏となるにしてもその時期をできるだけ延期させるべきだわ」

ナディン 「旅順艦隊が撃滅されても旅順は保持しなければなりません。バルチック艦隊を迎える軍港が必要です。味方が苦しい時は敵も苦しいのですよ」

ベールイ 「だいたい、弾がないっていってるけど、まだ十分にあるわよ」

スミルノフ 「私たちが皇帝陛下から受けた命令は旅順の固守よ。固守というのは戦えなくなるときまで戦うことだわ。戦えなくなる場合というのは食糧がなくなったときよ。食糧は少なく見積もっても三週間分あるわ。だからまだ降伏を論ずるのは時期尚早ね」

 

満座沈黙しステッセルの発言を待つ

 

 「(渋い顔で)私の考えでは防備が弱く抵抗の基盤にならないと思いましたが、皆さんのほとんどが戦うつもりなら戦いましょう。いや、ロシア軍人としては他に道はありませんね。皆さんがこの結論を出したことを心から喜びます」

 「(もしここで降伏なんて言ったら自分は逮捕されてしまうかもしれません。ウェラは『これ以上、戦いを続ける必要があるのか? ここまでやれば神も皇帝も許してくれるだろう』と言い続けていますけど)」

 

散会

 

 「軍人の仕事は戦いですから其の原則を振りかざされたら反対できません。ですが現実を理解せずに原則論をふりまわして部下を無駄死にさせるのは責任を回避する卑怯者に過ぎません。見るがいいのです、今日の戦争主義者は必ず沈黙するはずです」

レイス 「ステッセルの言葉は後日の状況と照らし合わせて妥当でした。しかし……」

 「降伏する勇気のほうが戦う勇気よりも偉大ならば、自分の国を守る事も不要になります。日本軍と戦って死傷した我が将兵も卑怯者でしかないのでしょうか……」

 

 

 

 「最後のはレイスが戦後残した手記からの引用やが、プロ市民に突きつけてやりたい言葉やな」

 「降伏派とはいえ、さすが軍人だね。でもママムッター、プロ市民の皆さんには言っても無駄だと思うよ」

 「そうやな。ところでこの会合の結果、旅順市民が暗澹あんたんとしたんや」

 「何で? 結論が徹底抗戦となってまだ戦争が続くから?」

 「むしろその逆というのが人間の心理の難しさやな」

 

 

 

ノイネ 「参謀長が降伏を主張したのが問題でした。参謀長は司令官の代弁役なので、司令官が降伏を決心したと理解されたのです」

 「どんな組織でもトップが戦意を維持している限りは部下も燃えるし組織も活力を失いません。だがトップの戦意喪失は他がどんなにがんばっても全体の士気喪失を招きます」

 「次に攻撃されたら司令官は降伏する――もう終わり――このような雰囲気が一気に醸成されてしまいました」

 

 

 

12月31日

 

 

 

松樹山堡塁が日本軍の爆薬で吹き飛ぶ

 

スミルノフ 「ゴルバトフスキー、松樹山を救援なさい」

 「(スミルノフを無視して)もう松樹山は放棄なさい」

ゴルバトフスキー 「(救援に向かう途中敗兵と出会って)ステッセル自身がそんな命令を出したのね・・・」

 

 「旅順要塞を守る三つの堡塁の最後、松樹山は攻撃開始から30分で陥落したんや。日本軍の死傷者も187人(戦死18人)にとどまった」

 

津野田 「こんなことならもっと早く攻撃方法を変えておけば良かったわ〜」

 「もっとも、これですぐ旅順が陥落するとは思えないけど」

大庭 「あとは望台だけですね」

乃木 「しかし一気呵成に攻めることはない。足場を確保してからだ」

伊地知 「明日、攻撃命令を出します」

 「津野田さん、旅順陥落まであと一月ですかね」

 

 

 

明治38年1月1日

 

 

 

一戸 「何だって? 俺の麾下の部隊が軍司令部の命令を待たずに望台に攻撃を開始したって?」

 「しょうがないな。軍司令官にはこっちから言っておくからちゃんと連係プレーを取れよ」

 「攻撃が早すぎでビックリだ。28cm砲を打ち込め」

午後3時半 望台陥落の報

大庭 津野田 「勝った…(涙目)」

 「だがロシア軍がおめおめと望台を手放すとは思えない」

 「一戸さん、望台頂上の防御をお願いします」

 

 

 

午後4時半 

 

 

 

松村 「我が師団にロシア軍より軍使が到着した」

 「こちらに送ってください」

 「また市街砲撃に対する苦情ですかね…」

 

 

 

午後3時、旅順

 

 

 

ゴルバトフスキー 「望台が陥落しました」

スミルノフ 「必ず奪回するから。貴方は少し休んでなさい」

 

5分後

 

フォーク 「閣下、望台が陥落しました。最早見込みはありません。この際開城して市民の虐殺を防ぐべきです」

 「そうですね。レイス、降服の使者を乃木に送ってください。文章は英語ですね」

レイス 「わかりました」

 「皇帝陛下に電報を打ちませんと…」

 

 

 

午後7時

 

 

 

 「降服の使者を派遣しました」

スミルノフ ゴルバトフスキー ナディン 「な、なんだってー!!

 

 

 

第三軍司令部

 

 

 

皆祝杯に酔っている

 

津野田 「参謀長の見積もる一ヶ月は長すぎる。一週間で充分よ。一週間後には旅順に入って敵の髭面をおがんでやるわ」

 

一同爆笑

 

 

 

午後8時

 

 

 

 「第一師団から敵軍使が到着しました。乃木閣下宛ての信書を持ってきています」

伊地知 「津野田さん、貴方読んで下さい」

 「はいはいっと・・・」

 

capitulation(降伏)

 

 「参謀長、一週間でも長すぎたわ、1日よ」

 「何ですって!?

 「やりました!

大庭 「やった!!

 「大本営、満州軍総司令部、連合艦隊に電報を打て!」

 

 

 

1月2日東京

 

 

 

山県 「これは間違いなさそうですね」

長岡 「やりました」

明治帝 「ステッセルに武士の名誉を持たせよ」

 「(陛下が興奮すると思った自分の浅薄さで背中に汗が流れました)」

 

 

 

満州軍総司令部

 

 

 

大山 「旅順が陥落した後第三軍司令部を入れ替えるのは大本営も了解済みなんだが・・・」

児玉 「そうですな」

松川 「でも今や第三軍は旅順を陥落させました。失敗だけを認めて功績を認めないのは禍根を後世に残します」

井口 「第三軍に恥をかかせるのは不要ですね」

 「うーん、何か良い案はあるか」

 「批判が集中している伊地知参謀長及び一部の幕僚の更迭というのはどうでしょう」

 「そうだな」

 「その旨を東京に伝えろ」

 

 

 

旅順最前線

 

 

 

一戸 「敵将は開城を申し出た。だから今日は攻撃するな」

 

両軍の兵士が抱き合って踊ったり酒盛りをしたり、
挙句の果てには旅順市街まで行って酒を買う光景まで見られた。
 

午後1時半 水師営に両軍の降伏談判委員が到着

 

両軍の降伏談判委員

 

 

レイス 「日本軍は降伏するなら捕虜になれといってますが……」

 「やむを得ないでしょう。ただし宣誓解放だけは認めてもらってください」

 

 「宣誓解放とは、この戦争が終わるまで如何なる武器を取らず、日本に対する如何なる敵対行為もしないことを筆記宣誓すれば本国に帰ることを認めるというものや。当然これで本国に帰れば軍法会議が待っているな。今回は将校および義勇兵に認められたんや」

 

 

 

午後4時半、談判終了

 

 

 

1月3日午前2時15分、全権が司令部に帰着

乃木 「ご苦労様」

津野田 「(´0`)ふぁ~(眠い眠い。とっとと寝よ)」

 「津野田君」

 「はい?」

 「天皇陛下からステッセルを厚遇するよう勅命がきた。陛下の意を伝達するため、ステッセルの下まで行ってくれ。可能ならば私とステッセルの会見もセッティングして欲しい」

伊地知 「津野田一人では危険です。一個中隊でもつけるべきかと」

 「問題ないわよ。敵中に行くんだから敵意があれば一個中隊でも全滅だわ。むしろ丸腰の方が相手を刺激しないと思う」

 「流石津野田だ。よろしく」

 「(あー眠い)」

 

 

 

午前6時

 

 

 

コンドラチェンコマルチェンコ
 「スミルノフ閣下、捕虜になるなどロシア軍の屈辱です」

スミルノフ 「どうしろっていうのよ」

マルチェンコ 「レイスは自分の安全しか考えていません」

 「兵たちも戦意を失っているわよ」

マルチェンコ 「しかし、彼らは平和は望んでも屈辱は望んでいないはずです」

 「いや中尉・・・もう遅いわよ。兵たちだって荷造り始めちゃってるんだから。(ため息)」

マルチェンコ 「旅順の名誉も去りました」

 

 

 

午前10時 旅順

 

 

 

津野田 「貴方はフランス語を理解しますか?」

 「当然です。聞き取れますが話せません」

 「英語は?」

 「ダメです」

 「えーっと・・・ステッセル閣下にお会いしたいのですけど?」

 「それは私です」

 「へっ?」

 

通訳登場で会談スタート

 

 「かくかくしかじかです。宜しければ閣下、乃木大将と会見されてはいかがでしょうか」

 「私がそちらの司令部に出向きましょう」

 

津野田、帰る

 

途中

 

津野田 「何?あの光景・・・」

 

日本軍とロシア軍が抱き合って接吻している。

 

 「これは妙ね。我が軍にこの手の趣味の人間がこんなにいたなんて」

 

 「抱き合って接吻するのはロシアの慣習やが、津野田はそれを知らなかったんや。軍隊では洋の東西を問わず男色傾向が存在するが、津野田はいくらそうであっても敵、しかもむさ苦しい相手に見境無く接するのはどうかと思ったんやな」

 

 

 

1月5日11時半 水師営

 

 

 

米国映画技師 「会談の模様を撮影したいのですが」

乃木 「敗者を侮辱する写真など日本の武士道が許さない」

米国映画技師 「そこを何とか」

 「どうしてもというなら会談終了後、友人として並んだ写真を一枚写すのを許可する」

 

会談開始

 

 「我々は国のために力戦した。しかしここでの戦闘は既に終わった。閣下と会見できるのは嬉しい」

 「私も閣下とここで会えるのは光栄です」

 「陛下の意向もあり、私は閣下のために可能な限り便宜を図りたい」

 「ありがとうございます。坑道戦をやり遂げた貴軍の工兵の勇気は世界に比類がありません。また28cm砲の威力は絶大でした。お二人のご子息を無くしたことをお悔やみ申し上げます」

 「私は息子が武人としての死に場所を得たことを喜んでいます。閣下のご子息は?」

 「息子が一人ペテルブルグの近衛隊にいます。彼は極東任務を希望しましたが、私が望んだ戦争ではありませんので勅命でなければ自ら望んでくるものではないといっておきました」

 「(それって公私混同では?)」

 「私の愛馬を閣下に送りたいのですが」

 「ありがとう。軍の掟にしたがって私のものになれば長く労り養います。貴軍の戦死者墓の保護に関して希望はありますか?」

 「東鶏冠山の西南にコンドラチェンコ中将の名にちなんだロマン山というのがあります。そこにはコンドラチェンコ中将以下同地で戦死した将校の墓があります。これを保護していただければ幸いです」

 「わかりました。安心してください」

 

 

 

午後0時55分 記念撮影

 

 

 

 「この有名な写真の構図やが、中央真ん中が両軍司令官、両脇が両参謀長。奥が第三軍管理部長渡辺満太郎少佐、副官松平大尉、マルチェンコ中尉、第三軍参謀安原啓太郎大尉、通訳川上事務官、最前列が副官ニェヴェルセコ中尉と津野田大尉やな」

 

 

 

 「自分がこの半生のうちで会った人の中で、将軍乃木ほど感激を与えられた人はいません」

 

 

 

 

 

 

旅順要塞攻防劇、幕

 

 

 

 

 

 

 「とうとう旅順が陥落したね。そこで質問」

 「何や?」

 「色々あるけど、何で旅順攻略戦ってこんなに激戦になったんだろう」

 「日露両軍にとっての戦略的価値が大きかったからやろな」

 「どういうこと?」

 「まず日本軍側からの視点で見るで。この講義で幾度となく触れたように、日本軍はバルチック艦隊が来る前に旅順艦隊を壊滅させなければならなかったんや。2つの艦隊が合流すれば百に一つも日本の連合艦隊に勝ち目はないと思われていたからな」

 「でも、旅順艦隊が壊滅してからも一月近く旅順で戦っているじゃない」

 「そのことが、第三軍の最終目的は旅順艦隊の壊滅ではなく、旅順要塞を陥落させることの何よりの証拠やと思うで。仮に、艦隊壊滅後に旅順の囲みを解いて第三軍が北上したら『日本軍は旅順を落せなかったから引きあげた』と世間一般に見られても不思議はないわな。それは世評を気にした日本にとって最も忌むべきことや。それに野戦と違って永久要塞である旅順を落せば明らかな『勝ち』やからな。遼陽・沙河の両会戦が引き分けに近い判定勝ちだとしたら、旅順の陥落は明快なKO勝ちや。これを世界に喧伝できるというのが大きいやろ」

 「日本陸軍の近代化に貢献したメッケルは

 と評しとる」

 「逆にロシアから見た旅順要塞の価値は?」

 「まず旅順艦隊の基地としての存在やな」

 「でも艦隊が壊滅してもすぐ降伏はしなかったよね」

 「バルチック艦隊を迎える軍港が必要や。ウラジオストックは規模が小さかったんや」

 「他には?」

 「第三軍を旅順に引き付けることで満州戦線で日本軍に対して有利に戦えるな」

 「旅順が陥落したことによる各方面への影響は?」

 「影響大やで、オーストリアの新聞は

 と書いたが、この予感が的中したのが『血の日曜日事件』や。1月22日に起こったこの事件はロシア革命の火付け役や。少し先の話になるが、日本がロシアに辛勝できたのはロシア内部の革命運動の影響も大きいからな」

 「そう考えるとやっぱり旅順陥落は日露戦争の重大な分岐点となるのか」

 「そうや。たらればを考えたらアカンが、もし旅順陥落があと一月遅ければ、第三軍は奉天会戦に間にあっとらんから、日露戦争の行方はわからん

 「そんなに大事なら降伏したステッセルの責任は重大なものになるんじゃない? ステッセルは『何故降伏したか?』って軍法会議にかけられなかったの?」

 「かけられた・・・その上に死刑判決が出た。だが乃木の運動もあって、禁固10年に減刑されたけどな」

 「判決が過酷だった理由って『まだ戦えるのに降伏した』とみられたこともあるんだよね?」

 「その問いに関してステッセルは

『私は旅順で大虐殺が行われるのを見るに忍びませんでした』

 と答えとる」

 「ふうん」

 「当時のステッセルの評判が日本においてそれほど悪くなかったのは日本軍の敗者に対する同情、特に明治天皇のそれが大きかったからやな」

 「乃木さんは指揮官として優秀だったのかな?」

 「これまた難しい質問やな。筆者的には、日露戦争を戦訓としたにもかかわらず後年の第一次世界大戦のベルダン攻防戦で似たような戦況になっているのだから、これを考えても乃木を無能扱いするのは言い過ぎやと思っとる」

 「おまけにベルダン要塞は旅順要塞と違って陥落してないしね」

 「まぁ旅順と違って補給戦が寸断されなかったというのが大きいんやがな」

 「第三軍が大量の戦死者を出したのは乃木のせいというより旅順要塞の情報が少なかった日本軍全ての責任や。それに二〇三高地攻防戦での消耗戦がロシア軍をこれ以上の戦闘に耐えられなくした面はあるで」

 「でも白襷隊がね…」

 「あれは……なんとも言いがたいな」

 「ただ、少なくとも他の軍司令官と比較して有能無能をいうのは無意味や。旅順と遼陽・沙河では戦闘の質が違う」

 「じゃあ奉天会戦は?」

 「それは今後のお楽しみやろ」

 「じゃあ最後にメインの登場人物に改めて自己紹介してもらおうよ」

 「それは士月さんのやり方のパクリやな」

 

 

 

 

 「乃木希典。司馬遼太郎によるとツキのない軍人。明治天皇の死去とともに殉死した。この殉死で夫人を道ずれにしたというのはデマだぞ」

 「伊地知幸介。思ったより悪い役では無かったですね、でも二〇三高地攻撃を本当に唱えたのかどうかさっぱりわかりません。旅順陥落後は旅順要塞司令官という閑職にまわされ、結局陸軍大将にはなれませんでした。スケープゴートという気がします。なお、私の後任に選ばれた第三軍参謀長は小泉正保少将ですが、北進している途中に列車から転落事故を起こして重傷になってしまい、改めて松永正敏少将が着任する・・・というわけのわからない状況になります」

 「大庭二郎。第一次総攻撃の作戦立案者。旅順陥落後に第三軍から外されたがとりあえず大将にはなれた。長州閥とはありがたいものだな」

 「津野田是重。旅順陥落後も第三軍に残った幹部って乃木と私だけみたい。乃木さんに『以後、作戦には口を出さないで下さい!』って言って伊地知参謀長に叱られたこともあるのよ。少将で陸軍辞めた後国会議員になったわ。奉天でも仕事するからお楽しみに〜」

 「一戸兵衛。有能だったんだけど何がどう有能だったのか今ひとつ描写不足だな。賊軍出身だったが大将になれたぜ」

 「大迫尚敏。遅れてやってきた第七師団が結局旅順陥落で一番美味しいところを持っていった形になったな」

 「中村覚。後に大将になるけど『白襷隊の兵士の屍の上の出世』と陰口を叩かれたみたい」

 「豊島陽蔵。今回は本当に影が薄かったわ。アイコンあてる必要あったのかしら」

 「松村務本。旅順陥落の一月後に脳溢血で死んだ。勿論DG細胞には冒されとらん」

 「大山巌。旅順が陥落してホッとした」

 「児玉源太郎。旅順に行ったのは事実だが、そこで何やったのか今ひとつよくわからん。私の本職は満州戦線にあるからな」

 「井口省吾。長岡外史と伊地知幸介の相手は疲れます」

 「松川敏胤。第三軍の参謀連中には神経を使わされました」

 「田中国重。とにかく怒鳴られた」

 「明治天皇。日露戦争で寿命が10年は縮んだ。乃木を一体誰と替えるんだ」

 「山県有朋。郷土の後輩が苦戦しているのを助けたかったです。その絶大な不人気ゆえに葬式には全然人が来ませんでした」

 「長岡外史。二〇三高地をやらせるのには苦労しました。スキーを日本で広めた立役者でもあります。でも一番の注目点は髭ですね」

 「有坂成章。あのシーンのためだけに出たようなものだな」

 「東郷平八郎。旅順が落ちて助かった。あとは猛訓練でバルチック艦隊と当たるだけだ」

 「島村速雄。旅順陥落後は連合艦隊参謀長を辞め、巡洋艦戦隊を率いて上村彦之丞司令長官を助けた」

 「秋山真之。バルチック艦隊撃滅の作戦を考え中」

 「ステッセル。救いようのない描写ですけど、戦死した部下の子供を養子にしたりと、全てが冷酷非情というわけでもなかったようです」

 「スミルノフ。結局ステッセルには足引っ張られ通しだったわ」

 「フォーク。ろくでもない役ね」

 「コンドラチェンコ。旅順陥落を見ずして死ねたのがせめてもの幸せだったのでしょうか」

 「トレチャコフ他。常に前線で戦ってた気がするわ」

 「レイス。ステッセルの意見を代弁させられていたような気がします」

 「ノイネ。従軍記者は大変です」

 「他にも出演キャラはいたが以上やな。次回は黒溝台ではなくバルチック艦隊来航をメインに、これまで触れなかった小ネタをやる予定やで。いわば、番外編やな。旅順陥落がちょうど良いきりや」

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