☆日露コンテンツ ソフィア先生の日露戦争その5☆


 

 

 

 

 

 

 

 「さて、乃木第三軍が満州に上陸したところで4時間目が終わった訳だが、引き続いて野津道貫大将率いる第四軍も編成され、満州に赴いた」

 「第四軍の編成は下記のとおりだ」

 「また、各軍を現地で総括指揮するための満州軍総司令部を編成する事も決められた」

 「大本営だと拙いの?」

 「戦地は満州だからそこで各軍の連携を巧くするための司令部が必要となった。当初は満州軍総司令部というものではなく、戦地大本営という形で満州に天皇の名代として皇太子嘉仁親王(後の大正天皇)が出向くという案があった。児玉閣下は嘉仁親王に『満州の馬賊の棟梁になっては如何でしょうか』と冗談を言ったという」

 「大正天皇は病弱だったと聞いているが、前線に出て大丈夫なのか?」

 「遠眼鏡事件ですね」

 「時代を間違えたら不敬罪で逮捕されそうな発言ね……」

 「その事件はさておき、当時の嘉仁親王は病弱ではなく、元気であられた」

 「しかし東京にも大本営があるんだろ? 二つ目を作るのは拙くないか

 「そうだ、だが現地での高等司令部は必要だった」

 「戦争は東京で起きているのではない! 満州で起きているニダ!

 「ネタの再利用はさておき、そういう事だな。よって満州軍総司令部となった。無論嘉仁親王も満州には行っていない。ところがそれでも問題が持ち上がった」

 「何?」

 「人選だな。まず満州軍の総参謀長には児玉閣下が着任するのは既定の事実だった。後は総大将だが、ここで問題が持ち上がった。枢密院議長で陸軍元帥でもある山県有朋が『ワシにやらせてくれ』と言い出した」

 「別に良いんじゃないの? 山県だったら総大将としてのキャリアは充分だし、どうせ日露戦争の陸戦をやっていくのは児玉源太郎の頭脳なんだから」

 「その頭脳が邪魔されるんだよ」

 「ハァ?」

 「万事細かい山県が一々児玉閣下の作戦や各軍司令官に口出しをする事が十二分に予想されたのだ」

 「そう言えば山県は日清戦争で第1軍司令官を務めたが必ずしも名指揮官ではなかったな」

 「下手糞ではないにしろ指揮官にカリスマがないとまずいですね」

 「首相の桂や陸相の寺内が長州閥の先輩である山県に遠慮したので、児玉閣下は明治帝に運動して、山県の満州軍総司令官就任を阻止した」

 「で、誰がなったの?」

 「大山巌元帥」

 「それじゃあ大本営が満州に行っただけじゃないの?

 「元々日露戦争の陸戦はこのコンビで遂行していくのが規定の方針だったから当然といえば当然の人事だ」

 「大山元帥は辞令を貰うと山本海相に会いに行く。この模様を再現してみよう」

 「と、このような具合だ」

 「満州軍総司令官に求められたものは、普段は児玉閣下に全てを任せる『度量』と、敗色が濃くなった場合に全軍を指揮し、鼓舞できる『勇気とカリスマ』というわけだ」

 「日本国内にて指揮を執る参謀総長及びその補佐役である参謀次長には誰がなったのですか?」

 「まず参謀総長には山県有朋」

 「あの肩書好きにはちょうどいい」

 「エ?」

 「と、児玉閣下が思っていたとかいなかったとか」

 「あのねぇ……」

 「続いて参謀次長にはやはり長州の長岡外史少将」

 「あ! 髭(ひげ)」

 「ほっほ〜 こりゃ見事な髭だねぇ〜」

 「たしかに凄い髭よね」

 「うむ、髭だ」

 「髭ですね」

 「髭だな」

 「髭しかないんかい……」

 「っておい、こんなところでも本家のパクリ?」

 「たしかにすごい髭だな」

 「この長岡外史の髭は19.7インチもあり、当時アメリカに22インチの髭の持ち主がいたから長岡は『ワシが世界第2位だ。これもワシの愛国心の表れである』と大真面目に言ったりしたというから、よほどの変わり者であった事は間違いない」

 「司馬遼太郎御大も坂の上の雲で、

『この長岡はたとえ長州人でなくても彼の能力でその地位を獲得できたであろう』(文庫版第4巻187ページ)

 と書いたと思えば、

『参謀本部次長長岡外史はその能力でえらばれたわけではなかった』(文庫版第4巻207ページ)

 と、書いていたりと長岡の能力があるのかないのか評価が一致していない。

 「ヴォルフさん、その解釈は変ですよ」

 「え?」

 「司馬遼太郎は『長岡は能力があったが、その能力のおかげで選ばれた訳ではない』といっているのだと思いますよ」

 「なるほど、そうか」

 「作者はこの解釈で納得するまでにしばらくかかったみたいです」

 「長岡外史に関しては旅順で扱うのでしばらく措こう。さて、今回は『黄海海戦』と予告した訳だが、予習してきたものはいるか?」

 「いつから予習が義務付けられたのかしら……」

 「ハイ! やってきました」

 「(何か裏がありそうだが)じゃあ、発表してみろ」

 「では行きますよ」

 「以上です」

 「バカもん!! それは『日清戦争』の黄海海戦ではないか! この授業で扱っているのは『日露戦争』だぞ」

 「ひどいです……、折角予習してきたのに」

 「まぁまぁ大尉、予習範囲を間違えるくらいは良くある事です。それにわざとやったわけじゃないし……」

 「わざとなんだよ、それがさ

 「……

 「今時『振り返れば奴がいる』ネタなんてわかる人いるのかしら?」

 「作者が始めてまともに見たドラマだというぞ」

 「西部警察とかじゃないの?」

 「そっち方面ではないドラマでという意味だ」

 「あの織田裕二は神よねえ」

 「確かに悪寒が走ったな」

 「石黒賢もあの衰弱振りは凄かったですよ」

 「脱線はそこまでにしておけ。予習がなってないようなので本編に入る」

 「でもソフィアさん、前回のあれは『予告』ではありませんよ」

 「確かにアレは始まりに出るわね」

 「わかった、ならもう一度。ほれ

 「あれ、変わってるけど」

 「問題ない、そこまで進むから」

 「大丈夫?」

 「大丈夫だ。さて、3時間目で説明した旅順港外の五・一五事件を覚えているか?」

 「五・一五事件って、そりゃ犬養毅が暗殺された事件の事じゃないのか?」

 「そりゃ昭和の話だ。伊藤正徳御大がこのように表現しているのだ」

 「要するに初瀬と八島が沈んだ事でしょ?」

 「そうだ。日本軍にとっては大ピンチだ。ところが旅順艦隊司令官のウィトゲフトがヘタレの臆病者だったので幸いした」

 「マカロフのお気に入りだったウィーレン大佐(巡洋艦バヤーン艦長)などに『チャンスです』と進言されても『余の使命は艦隊を保全する事である』と旅順港内に引きこもったままだった。」

 「しかし孤立した旅順に引きこもったままでは糧食も尽きてくる。要塞司令官のアナトリイ・ステッセル陸軍中将は、特に陸軍の利害に固執した。ある合同会議で、

 とばかりにあわや暴力沙汰の口論となった。陸軍には艦隊さえ居なければ日本軍がここまで旅順を攻めはしないという意識があった」

 「なんつーか、内輪もめの典型ね」

 「6月23日に一度出撃したが、連合艦隊に遭遇してすぐに旅順に逃げ帰ってしまった」

 「ヘタレもここに極まれりだな」

 「所詮はアレクセーエフの参謀長で、実戦経験など皆無だったからな」

 「宮廷人事というものですか」

 「そうだ、だがバルチック艦隊来航の前に旅順艦隊を殲滅せねばならない。そのために陸軍が第3軍を編成し、旅順を陸から攻めて艦隊を追い出す作戦に出たわけだ」

 「満州でも戦わなきゃいけないのに陸軍は大変ね」

 「その通りだ。陸軍は本来旅順は放っておくつもりだった。児玉閣下は『竹矢来でも組んでおけばよいよ』と必要な竹の量の見積もりを出させた事もあた」

 「陸軍そのものが旅順を軽く見ていたというわけですね」

 「その話は次回以降の講義で詳しく行なう。緒戦から旅順で戦っていて、その堅固さが骨身に染みていた海軍は陸軍に重砲の提供を申し出る」

 「話の流れからすると折角の申し出を陸軍が断ったというわけ?」

 「そうだが、結局受け入れた。その海軍重砲隊が黄海海戦に重大な影響を与える」

 「何だそれは」

 「黒井悌次郎海軍中佐率いる重砲隊は第三軍による旅順要塞包囲が完成したのち、8月7日から旅順港内に向けて砲撃を開始した」

 「旅順艦隊にとっては前門の東郷、後門の黒井というわけですね」

 「6月23日のヘタレ振りに業を煮やしたロシア朝廷は8月7日に『全艦隊を率いてウラジオストックに向かえ』という勅命をウィトゲフトに出す。こうなればウィトゲフトも出撃せざるを得ない。2日の準備の末、8月10日午前6時に出撃した」

 「旅順艦隊の主力艦は以下の通りだ。

 「あれ? 初瀬と八島はともかく、出雲、吾妻、磐手、常磐の重巡4隻はどうしたの?」

 「上村閣下に率いられたその4隻は朝鮮海峡にあり、黄海海戦には参加していない。この事はもう少し先で述べる」

 「朝鮮海峡って対馬海峡の事じゃないの?」

 「そうだが、伊藤正徳御大が『朝鮮海峡にあった』と記述しているのでそれに倣った。付け加えておくが伊藤御大は日本史上最高の海軍記者で、戦後は李承晩ラインに対して無力な状況を慨嘆されていた」

 「巨砲が勝負を決めると見られていた海戦においてロシアは戦艦6隻で12インチ砲が24門、日本は戦艦4隻で16門しかない

 「おいおい、それじゃあロシアがはるかに優勢じゃないか」

 「しかもロシアはバルチック艦隊が後に控えている。初瀬・八島を失った事でより損害を恐れる日本軍に対して、犠牲を恐れぬ猛攻のチャンスはウィトゲフトにあったのだ」

 「東郷大将(6月6日に昇進。同日大将に昇進したのは山本権兵衛、児玉源太郎、乃木希典ら7名)も秋山参謀も戦後『8月10日ほどつらかった戦いはない』と回顧している。なんといっても自らより強大な敵を完全撃滅し、しかも自身は無傷である事が求められたわけだからな」

 「で、戦闘の行方はどうなったの?」

 「午後0時30分、連合艦隊は旅順艦隊を発見した。ここから2時間30分に渡る戦いが黄海海戦の第1幕だ」

 「1時15分、砲撃が開始された。以下互いに並行して打ち合うが、東郷長官の頭には6月23日の戦訓から『旅順に逃がさない』があり、対してウィトゲフト長官には『ウラジオストックに逃げる』の意識がある。この意識の差が後に『複雑怪奇な艦隊運動』と戦史家に酷評されたふらふら運動の元となった」

 「どういう事ですか?」

 「要するに西へ逃がさないと考える連合艦隊と東に逃げようと考える旅順艦隊の意識の齟齬、いや、奇妙な一致というべきか、によって、旅順艦隊は連合艦隊を引き離す事に成功したのだ」

 「秋山参謀は『艦隊の戦術運動のために3分遅れた。そのために追いつくまで3時間かかった』と戦後に書いている」

 「どんな運動だったのかサッパリわからないんだけど」

 「細かい事は気にするな。作者もサッパリわかっていない」

 「ダメですねえ」

 「伊藤正徳御大の『大海軍を想う』を読め。そうすれば多少はわかる。3分早く追撃運動に入っていればもっと早く追いつけたという事らしい」

 「とにかくウィトゲフトの逃げようとする戦術は巧みだった。対して連合艦隊が体制を立て直し、追撃戦に移ったのが午後3時だ。既に旅順艦隊からは3万mも離れている。戦艦主砲の有効射程距離が7千mであったから、これは絶望的な距離だった」

 「しかも先ほどの砲撃戦で旗艦の三笠はメインマストに直撃弾を受け、倒れる寸前になり、速度を出せなくなった。倒れればますます速度は減る。『あれが倒れなかったのは天佑としか言い様がない』と秋山参謀は戦後に述懐していたほどだ」

 「ウラジオストックに逃がしてしまえば日本は負けだ。そこを本拠として通商破壊を実行に移すだろう。それにより予想される被害は後述するウラジオ艦隊とは比べ物にならなかったに違いない。また、ウラジオストックなら悠々とバルチック艦隊を待つこともできる。逃げる旅順艦隊以上に追う日本艦隊は必死だった

 「司馬遼太郎御大はこの追撃戦を、

『逃げる熊を犬が追っているようなものである』

 と表した。説明が遅れたが先ほどの砲撃戦ではどちらの艦隊も致命傷を受けた艦は存在しない」

 「追っ掛けている以上連合艦隊のほうが速かったのだろうけど、どのくらいの差だったの?」

 「連合艦隊は時速15ノット半(1ノットは1852m)、旅順艦隊は時速14ノットだ」

 「日本艦隊は優速をもって知られる艦隊だったが、長い旅順封鎖で艦の船底にはカキガラが付き、機関には老廃物が溜まっていて最高速の18ノットを出せなかった。対して旅順艦隊は艦の整備が成されていた」

 「計算では連合艦隊が追いつくのが午後7時ごろだった。そうなると日が完全に沈むまで後30分。これでは致命傷を与える事ができるだけの砲戦は期待できない。当時の軍艦の夜戦能力は皆無といってよい」

 「日本海軍、いや、日本そのものの大ピンチですね」

 「ところがロシア海軍に第一の不幸が訪れる。日本海軍にとっては天佑だな」

 「なんだそれは」

 「戦艦レトウィザンが浸水し、速度が落ちたのだ」

 「この浸水は先の砲撃戦によるものではない。前述した黒井重砲隊の砲撃で旅順港内にて受けた損傷によるものだった。出港前に応急処置をしたが、再びほころび出してきたのだ」

 「元々旅順艦隊内でも『置いていくべき』という意見が強かった艦だが『勅命は全艦隊の回航だ』と譲らなかったウィトゲフトが連れてきたのだ。確かに連合艦隊との砲戦を考えれば戦艦が多いに越したことはない」

 「どうなったのでしょうか?」

 「艦隊全てがレトウィザンの速度になるということは危険極まりない。速度があまりに落ちれば置き捨てていくつもりだったが、12ノット半は出せるとなったので連れて行くことにした。計算上、再度の砲戦が30分ほど多くなる事になる。その程度ならという事だ」

 「東郷大将の強運が既に発揮されているな。レトウィザンの減速、そしてウィトゲフトがそれを引き連れていく決断をした事だ。レトウィザン1隻を置き捨てて逃げられていれば、少ない戦力をさらに対レトウィザンに向けねばならず、どうなっていたかわからない」

 「連合艦隊が旅順艦隊を有効射程距離に収めたのが午後5時半だ。計算よりも早い。2時間あれば砲戦には十分だ。レトウィザンがこの2時間を恵んでくれたようなものだ」

 「砲戦の第2幕はどうなったの?」

 「細かい事はない!もはや互いに撃って撃って撃ちまくるだけだ

 「旅順艦隊の錬度は後のバルチック艦隊とは比べ物にならないほど高かった。優秀な砲員が旅順に配属されていたからだ。特に三笠の被害が凄まじい。命中弾20発以上、損傷箇所は主要部だけで95箇所。主砲は1門破損している。人的被害は艦の主要人物だけでも後の軍令部総長伏見宮博恭王少佐(軽傷)、東郷の隣に立っていた三笠艦長伊地知彦次郎大佐(重傷)、秋山参謀のそばにいた参謀殖田謙吉少佐(佐世保病院にて死亡)である。総勢100名を超えている。だが、東郷長官はかすり傷一つ負わなかった

 「ホントに『運のいい男』ね」

 「島村参謀長が、

『司令塔に入りましょう』

 と勧めても、

『司令塔は外が見にくうていかん』

 と応じず露天艦橋にて戦況を見つめていた。司令塔は装甲で覆われ安全だが、その分戦況が見えない。こと勇気という点では東郷に勝る敵将は存在しなかった」

 「ところで戦況はどうなのだ?」

 「それを説明するにはまず日本海軍の砲弾について説明せねばならない。日清戦争の教訓から、日本海軍の砲弾は敵艦を沈める事ではなく、上部構造物を破壊し、戦闘力を奪う事に主眼が置かれていた。それにピッタリだったのが日本海軍のリーサルウエポン、下瀬火薬だ」

 「リーサルウエポンて、大袈裟ね」

 「全くです。コロニーレーザーじゃあるまいし」

 「比較対象が根本から間違っていると思うぞ……」

 「海軍技師・下瀬雅允の発明した下瀬火薬は当時世界最強の火薬で、その爆発力は通常の3倍だったというから決して大袈裟ではない。現に日本海軍はその製造法を最高機密にしていた。数に劣る日本海軍にとってこの火薬は物理力としては唯一の頼みであった」

 「ところが強力すぎて信管を吹き飛ばしてしまう。下瀬火薬に耐えうる信管として発明されたのが伊集院五郎海軍中将(発明当時は少佐、日露戦争時は軍令部次長)による伊集院信管だ」

 「この二つによる日本海軍の12インチ砲弾は敵艦の構造物及び戦闘員を悉く吹き飛ばしたといってよい。その外見から旅行鞄(チェモダン)と渾名された12インチ砲弾は海面に落着してもそのショックで爆発し、破片をロシア水兵に浴びせる。また、3000度にも昇る高熱を発し、やはり水兵を倒す

 「あまりの威力にロシアは『毒ガスを使っている』と世界に訴えたくらいだ(高熱で倒れたものを錯覚した)」

 「しかし、裏を返せばすぐ爆発するので貫通力がない。よって敵艦を沈める事にはさほど威力を発揮しないのだ」

 「そんな砲弾で大丈夫なの?」

 「当時は『砲弾の威力よりも戦艦の防御装甲のほうが勝っている』というのが軍事上の常識だった。当時は日清日露以外の大海戦が起きていないので他の例と比較する事も出来ない。砲弾の威力に関して残る事実は、敵旗艦であるツェザレウィッチに15発もの12インチ弾が命中したが、全く沈む様子がなかったという事だけだ。当然ながら連合艦隊首脳部は焦った」

 「対して旅順艦隊。参謀長が逃げるだけでは埒があかないと決戦をウィトゲフトに主張した。ここで決戦を選択すればあるいは彼及び旅順艦隊の運命も変わっていたかもしれない」

 「だがウィトゲフトは『勅命によりウラジオストック直行あるのみ』と主張して譲らなかった。ロシア朝廷が『東郷と決戦してその後に』という文言を加えておけばやはり……」

 「それで、どうなったのですか?(明らかに続きを焦っている)」

 「午後6時37分、運命の一弾が発射された」

 「何故アイコンがブライト?」

 「秋山参謀はこれを『怪弾』と呼んでいる。三笠から発射された(という事だけは判明している)この一弾が敵旗艦ツェザレウィッチの艦橋に見事命中!!

 「もし映画技師がいて、直撃の瞬間を撮影していたら100年経っても映画館を満員にする作品となっていたであろう」

 「日本海軍のリーサルウエポン、下瀬火薬が大量につまった12インチ砲弾がウィトゲフト以下の幹部をこなごなに吹き飛ばしたのだ」

 「長官の片足だけが艦橋に転がっていたとロシア公刊戦史にある」

 「下瀬火薬はメガフレアですか?」

 「メガフレアって、おい」

 「そのような物だ」

 「いいのかそれで?」

 「ここぞという時の一撃必殺だ。IV以降の弱体化に泣いているのは作者だけではあるまい」

 「作者が最後にプレイしたVIIではテラフレアなるものが登場して一撃必殺を体現してますけど」

 「あれ、メテオを壊せるんじゃないか?」

 「そんな事は当時のプレイヤーの全てが思っていた事だろう」

 「あんたら無駄話が過ぎるわよ」

 「この一撃を食らい、ツェザレウィッチに残った幹部はまず艦長のイワノフ大佐であった。この惨状を見た大佐は指揮権を次席指揮官であるウフトムスキー少将に譲るべく信号を発そうとしたその瞬間、今一度の12インチ砲弾――今度こそ文字通り運命の一弾――が直撃!! 今度こそ残る幹部を全て吹き飛ばした」

 「東郷の運のよさに比較してなんて運がないんだ。2発続けてピンポイント命中なんて」

 「作者の乏しい知識で戦史を紐解いてもこのような例は他にありませんね」

 「だが、この段階ではまだ運命的ではない」

 「ああっ、もうっ、じらすわね(やや興奮状態)」
※アイコンは読者サービスです(笑)

 「運命的だったのは操舵員を倒した事だった。しかも即死させず、数秒後に死に至らしめた事がこの海戦の重大な分岐点となった

 「戦死した操舵員が覆い被さった形になったツェザレウィッチは取り舵の状態になったため、左に回頭していった。長官の戦術と見た二番艦のレトヴィザンを始めとする続行艦はこれに倣って左に転回する」

 「ところがツェザレウィッチの様子がおかしい。指揮官が居ない状況で取り舵のままだから当たり前だな。旅順艦隊は各艦が衝突しそうになったりと、四分五裂の状況に陥ってしまった」

 「この状況でようやくツェザレウィッチから指揮権を譲る信号が出た。四番艦のペレスウェートに座上するウフトムスキー少将はこれを確認すると『我に続け』の合図を掲げた。しかし合図を掲げるべきマストが倒れている。やむなく艦橋の横に掲げたが、これを認めたのは直後の五番艦、セバストポリだけであった」

 「なんかもう、大混乱ね」

 「これではとてもウラジオストックにたどり着けないと判断したウフトムスキー少将は旅順に引き返す旨の信号を出した。そうこうしているうちに午後8時25分。ついに日が完全に沈み、東郷長官は砲撃中止命令を出した。代わりに後を引き受けるのが駆逐艦隊だ」

 「日清戦争の威海衛襲撃の例を見るまでもなく、駆逐艦による夜襲!っと言えば日本海軍のお家芸よね〜これで旅順艦隊は壊滅したわけね」

 「いや、全く」

 「へっ?

 「旅順封鎖によって疲れきっていたのが一つの理由。もう一つの理由は緒戦の旅順襲撃により駆逐隊司令や艦長は金鵄勲章を約束され、命を惜しむようになっていた」

 「だめじゃん」

 「命惜しみというよりは疲れだろう。当時の小型艦はトイレも無く、波による揺れもひどい。波があると飯が炊けないくらいだ。当然居住空間も狭い。こんな状況で半年も経てば疲れないほうがどうかしている。後年のアホ参謀が勘違いしたように、日本軍は疲れ知らずの無敵軍隊ではないのだ」

 「人心の刷新という意味で、幕僚の進言通り、東郷長官は駆逐隊司令を全て換えてしまった。後任の一人が威海衛襲撃でも有名な鬼貫太郎こと鈴木貫太郎中佐だ」

 「黄海海戦の結末は?」

 「まず日本軍から見れば敵艦を一隻も沈められなかったという事で失敗と言うべきだろう。戦闘では勝っても目的を果たしていないからな」

 「旅順艦隊はどうなったのだ?」

 「まずツェザレウィッチはドイツの租借地である膠州湾に向かった。同盟国である筈のドイツは敗者には冷淡で『出ていってくれ』と国際法をタテに要求した」

 「とても出ていけないと答えると、武装解除して戦争終結まで抑留してしまった。中立国として当然の行為だ」

 「相変わらずドイツ人は融通がききませんね」

 「……フランスだって似たような事をしているぞ」

 「ディアーナは仏領サイゴンで、アスコリドは上海で抑留された。他の主力艦は満身創痍で旅順に逃げ戻った」

 「駆逐艦隊の旗艦だった軽巡ノーウィックだけが樺太までたどり着いたが、そこで日本艦隊に見つかり、激しい戦闘の末自沈、乗組員は陸上に泳ぎ着きウラジオストックにたどり着いたと言う」

 「また、駆逐艦のレシテーリヌイは芝罘に逃げ込んだ際に、日本軍に見つかって降伏勧告を受けた。艦長のコルニリエフ大尉は逃れがたい事を知り、降伏勧告を受諾するふりをして艦の自沈準備をする。この時日本軍と艦上で乱闘が起こった。このような例を見ても、個々の戦力としてロシア軍人が弱かったとは言えない

 「イギリスを手本にした日本海軍が『あいつは強い、そのあいつを破った俺はもっと強い』のノリを手本にしただけじゃないでしょうね?」

 「それはないと思うが……」

 「旅順に戻った艦隊を見たステッセルを始めとする陸軍首脳は二度と『艦隊出ていけ』とは言わなくなった。言われても出られないのだがな。修理不可能と見られた各艦の砲は陸揚げして要塞防衛のために使われる事になった。だが、その状況は東郷長官には全くわからなかった

 「すると連合艦隊はまだ旅順の封鎖を続けなければならないのか?」

 「その通りだ。だが東郷長官から一つだけ重大な懸念が去った」

 「何それ?」

 「8月14日に起こった蔚山沖海戦だ。上村閣下が黄海海戦に参加しなかったのは前述したな」

 「何をしていたのですか?」

 「ウラジオ艦隊を見張っていたんだよ」

 「ウラジオストックにもロシア艦隊はいたわけね」

 「そうだ。エッセン少将率いるウラジオ艦隊は巡洋艦グロムボイ(12300トン)、ロシア(12000トン)、リューリック(10900トン)の3隻を基幹とする旅順艦隊の別働隊だ」

 「このウラジオ艦隊は旅順艦隊とは別の国の艦隊の如く機敏に活動する」

 「何をしたのでしょうか?」

 「日本海を主とし、時には太平洋まで出てきての通商破壊戦だ。制海権が維持できなければ満州に兵力物資を送る事も出来ない。そもそも島国の日本はシーレーンを寸断されると忽ち干上がってしまう」

 「今でもそれは同じなのに海上自衛隊の増強に反対する奴がいるのが嘆かわしい」

 「元々海上護衛は第三艦隊の仕事だったのだが、第三艦隊の戦力ではとてもウラジオ艦隊には対抗できん。よって第二艦隊が海上護衛及びウラジオ艦隊の殲滅にあたった

 「逆に見ると日本のシーレーンを寸断すればそれはロシアの勝利につながる訳ね」

 「そうだ。旅順艦隊が引きこもっている間、ウラジオ艦隊は7回も出撃して日本近海を荒らしまわっている。4月25日の輸送船金州丸撃沈を筆頭に、6月15日には常陸丸を撃沈、佐渡丸を大破させ、他にも和泉丸、英船ナイト・コマンダー、独船テアなど数多くの船を血祭りに上げた。津軽海峡を横断する事2回、伊豆を遊弋、東京湾頭に出現するといったふうにまさに日本をパニックに陥れた」

 「凄いですね」

 「特に常陸丸は日本本土がまだ見える場所で撃沈された。この悲報の衝撃の大きさは現在靖国神社にある『常陸丸殉難碑』を見てもらえればわかると思う」

 「第二艦隊は何をやっているんだ?」

 「そのような声が日本各地であがった。例えば第二艦隊は何度も濃霧でウラジオ艦隊を逃がしているが、

『濃霧艦隊というのは逆さに読めば無能艦隊か』

 と非難し、さらに呆れた事には第二艦隊を『露探艦隊』(露探はロシアのスパイの意)、上村閣下を『国賊』と侮辱するにまで至った」

 「上村閣下を始めとする第二艦隊司令部員の留守宅には投石あり、暴漢が飛び込み『腹を切って死ね』と迫るものあり、散々だった。上村夫人は密かに神社に参り、敵艦発見を祈ったという」

 「何か現在のどこぞの国を見てるみたいですね」

 「艦隊にこんな投書まで来た」

「上村艦隊は下手な鳥刺だ。上野に鳥が出たからといって新橋から駆けつけて間に合うか。馬鹿め」

 「もう滅茶苦茶ね」

 「通商破壊に悩まされるというのは以後の両世界大戦でもあったことだ。ましてや飛行機もなく索敵機能に乏しいこの時代の艦隊が大洋を暴れまわる快速巡洋艦を捉えるのは並大抵の事ではない」

 「確かにそうだな」

 「喧嘩っ早く、豪勇を持って知られる上村閣下の苦悩は筆舌に尽くしがたいものだったに違いない。東郷長官とは対称的で、この時の上村艦隊は不運に見舞われ続けていた。『濃霧の神様』とまで言われた」

 「中でも悲痛だったのが7月21日だ。大本営から『ウラジオ艦隊が伊豆半島沖に出現したので東京湾付近へ急行せよ』という命令が来た。上村艦隊はいそぎ九州の西方を南下して太平洋に向かう。ところが途中、連合艦隊から『北海道へ行け』という命令が来た。相反する命令に悩まされた上村艦隊は結局、最高命令者である大本営に従ったが、またもウラジオ艦隊を逃がしてしまった」

 「何でそんな事になったのですか?」

 「大本営命令の根底には『ウラジオ艦隊は東京湾を脅かしつつ太平洋沿岸を経て最後は旅順艦隊に合流するだろう』というものがあった。対して連合艦隊は『敵はそのまま引きあげて津軽海峡を通りウラジオストックへ帰るだろう』と考えていた」

 「この連合艦隊の考えは秋山真之の閃きによるものだ」

 「閃きって、それじゃあ根拠もへったくれもないじゃないのよ・・・」

 「根拠はある」

 「ハァ?」

 「常にウラジオ艦隊の事を考えていた秋山は疲労のあまりついうとうとした。その瞬間、脳裏にウラジオ艦隊が津軽海峡を通るシーンが浮かぶ。その勘を信じた秋山は直ちに東郷にウラジオ艦隊の行動予想を理論的に説明した。大本営命令と異なる命令が発せられたのはこの時である」

 「(・∀・)デムパ!!ですか?」

 「ギリギリの選択肢のうち、一つを選ばねばならなく、どちらも十分な根拠があり甲乙つけ難い場合の最後の段階では天賦の勘を信じるというのが秋山だった」

 「なんかやっぱりカルトの世界みたいだけど」

 「勿論この時『勘だ』などといえば東郷は秋山を信じなくなるだろう。それを信じさせたのは秋山の理論的な説明だった」

 「戦場での最後は運不運という事か」

 「そういう事になるな。後世の立場で言えるのは、秋山がカルトだという事ではなく、この時に第二艦隊が連合艦隊命令に従っていればウラジオ艦隊の始末はこの日についたであろう、そして第二艦隊は黄海海戦に参加できたであろうという事だけだ」

 「もう一つあります」

 「何だ?」

 「秋山真之はニュータイプだったという事です!

 「又そのネタかよ。ただのカテゴリーFかもしれないじゃない」

 「カテゴリーFなんてわかる奴いるのか? しかも作者はXを見てないのに」

 「そもそもニュータイプの定義とは何だ? 作者は『物事の本質を即座に理解する人種』と聞いているが」

 「パイロット適性のある人でしょ?」

 「シーブックの説かい……」

 「ニュータイプかどうかはさておき、秋山参謀が『海軍最高の頭脳』『不世出の名参謀』等と言われる一端はこの辺にあるのかもしれないな。事実勘は良くあたった。学生時代は試験の山勘を外した事がないくらいだ」

 「以上のように不運、苦闘に喘いでいた第二艦隊だが、ついにその無念を晴らす時が来た。第二艦隊だってやられっぱなしではない。ウラジオ艦隊の動きの特徴を調べ、旅順艦隊の行動と呼応している事を読んだ」

 「8月10日の旅順艦隊出撃にあわせてウラジオ艦隊が出撃する事も読みの範疇だ。事実『途中まで迎えに来てくれ』という電報をウラジオ艦隊は受けている」

 「8月12日にウラジオストックを出撃したウラジオ艦隊と第二艦隊が激突したのは2日後の14日午前5時だ。両者お互いにほぼ同時の発見だ」

 「朝食をとるヒマもなく、その後5時間飲まず食わずの戦いに入る。しかも盛夏でエンジン及び発砲の熱気に伴い、40度以上の暑さでの戦いだ。しかし上村艦隊はもっと熱かった!

 「ついに訪れた復仇の機会に感奮している。

 と一兵士が書いていたほどに悔しがっていた第二艦隊の士気の高まりは創造する事も出来ない」

 「朝鮮は蔚山の沖で両艦隊は衝突した。出雲、吾妻、磐手、常磐の各4隻の主砲が火を吹く」

 「第二艦隊の巡洋艦が9000トンクラスなのに対し、ウラジオ艦隊の巡洋艦は10000トンを超える戦艦並の艦だ。参謀が、

『大きいですなあ』

 とつぶやくと上村閣下は

『大きいから当たるのだ』

と吐き捨てるように言った」

 「で、戦闘はどうなったのでしょうか?」

 「終始第二艦隊が太陽を背にするように陣形を取った事もあり、また第二艦隊の怨念が弾に取り付いたのか、主砲弾の命中率は恐るべきものだった。忽ち敵の三艦に火災が起こった

 「ついにロシアとグロムボイは逃げ出す。しかしリューリックは舵を破壊されて思うように動けない。するとロシアとグロムボイはリューリックを救わんとばかりに再び戻ってきた」

 「ロシア艦隊もやるものだな」

 「別物みたいね」

 「懸命に復旧作業を続けたリューリックは他の二艦とともに陣形を整えたが、また落伍してしまった。このリューリックに対しての戦友愛はすごく、4回も変針してロシアとグロムボイは救おうとした」

 「でも、そんなんじゃ自身の被害も甚大な物になるんじゃないの?」

 「その通りだ。ついにリューリックが戦闘不能になり、ロシアとグロムボイはあきらめて逃走を図る。第二艦隊はこれを追うが、黄海海戦の時と同じ理由で追いつけない。ウラジオ艦隊も整備はきちんとされていた」

 「上村閣下がうらみ重なる二艦を沈め様とにらみつけていたその時、参謀長加藤友三郎大佐が風浪で肉声が聞こえない時に使う伝言用の板に、

『残弾ナシ、反転然るべしと考う』

 と、書いた。上村閣下は

『然るべきやれ』

 と大声で命じた後に、その板を床に叩き付け、踏みにじった。その鬼の形相に参謀連中は震え上がったという。如何に上村閣下が悔しかったのか想像する事すら出来ん」

 「まあ弾が無いんならしょうがないわね」

 「あったのだがな・・・」

 「へっ?

 「弾薬庫は空になったが、主砲にはまだ残弾があった」

 「ダメじゃん」

 「まあしょうがない。どのみち追いつけないしな。しかしリューリックは沈没し、ロシア・グロムボイの二艦はウラジオストックにたどり着けこそしたが、二度と戦闘航海に耐えない廃艦になった。ウラジオストックの設備では修理する事も出来ない。この戦いを以ってウラジオ艦隊は壊滅し、二度と表舞台に出てこなかった

 「とりあえずめでたしめでたしですか」

 「さらに上村閣下の武名を上げる行為があった。沈没したリューリックの乗員が海を漂っていたが、上村閣下は

『溺れるもの全てこれを救助せよ』

 と、戦いが終われば敵味方も無い日本の武士道を世界中に知らしめたのだった」

 「リューリックの乗員は戦死者以外ほとんど全員が救助された事は日本武士の美徳としてロシアの戦史に特筆される事である(救助参加艦6艦、救助敵兵627名)」

 「まさに『サムライ』ですね」

 「普通は海軍の将官は『提督』と呼ばれるが、上村閣下だけは『将軍』と呼ばれたのもこのようなところに因るのだろう」

 「ところでまだ旅順艦隊はボロボロとはいえ港内にいますが、どうなるのでしょう?」

 「両海戦での沈没艦は無いとはいえ、無傷とはいえない連合艦隊はこれ以上力攻めが出来ない。そして早く本国に戻ってバルチック艦隊を迎え撃つ準備に入らなければならない。そのために乃木第3軍が苦闘する」

 「いよいよ旅順総攻撃の開幕ね

 「そうだが、次の講義で旅順を扱うか遼陽を扱うか、ダメダメな作者がまだ決めていないのだ」

 「ホント、ダメダメですね」

 「一応、旅順と沙河はまとめて今までの講義形式で行ない、一方旅順は第一次総攻撃から水師営の会見までを演劇方式でやるらしい」

 「そんな事書いて大丈夫なのか? 出来る保証は無いんだろ?」

 「そうだが、この作者は追い込まれないと何もやらない人間だ。このようにしておけば嫌でもやらざるを得ない」

 「後ろ向きな考えね。という事は恒例の次回予告もナシ?」

 「そうだ。次回でのオープニングという事で我慢してくれ」

 「見てください!!

 「……」

 「これだけはお約束かなと思いまして」

次回予告!!

次回へ続く


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